
気がつけば早11月も末になり、12月、師走が目の前である。今年もボジョレ・ヌーヴォを注文せず買わず、去年と同じクリスマス前の12月半ばに届くドイツの白の新酒(→
前回参照)を楽しみにしているところだ。それで今回はワイン繋がりということで、シャンパンについて少し。
何かの祝いの贈答や酒好きな人への贈り物に、ボクはよくシャンパンを使う。銘柄はいつも決まっていて、ヴーヴ・クリコのポンサルダンという黄色いラベルのもの。ヴィンテージの高いものを見れば銘柄も金額もキリがないので、もっともスタンダードなラインナップであるこれが、ボクの懐具合にもぴったり、分相応なのだ。もっとも、単に個人的にシャンパンを飲むとなると、やれクリュッグの細首だのテタンジェだのと好き放題を言うのだけど。しかしこと贈り物となると、ヴーヴ・クリコなのである。
理由は簡単、若い頃に観て大好きになった映画「カサブランカ」でこのシャンパンが使われていたから。1942年製作のこの作品、そもそもは対ドイツ戦争の戦意高揚のためのプロパガンタとして作られたB級やっつけ映画だというが、とてもとても、宝石のような名セリフと名シーンがきら星のごとく散りばめられた素敵な名作映画である。主演はハンフリー・ボガートとイングリッド・バーグマン。今さらボクごときがしたり顔で言うまでもないが、ボガートはどこまでもカッコよく、バーグマンは女神のような美しさなのだ。

この映画で、ボガート扮するリックが営む「カフェ・アメリカン」というクラブで、客たちが手に手にシャンパングラスを持ち、飲んでいるのがヴーヴ・クリコなのである。金持ちは製造年指定のついたヴィンテージ、普通の客はおそらくポンサルダンとおぼしきものをそれぞれ。バーグマン扮するイルザとその夫であるヴィクター・ラズロが初めてリックの店に来て注文するのもヴーヴ・クリコ。回想シーンのパリのアパルトマンで、少し切ない雰囲気の中でリックとイルザが乾杯するのもこれまたヴーヴ・クリコなのだ。ヴーヴ・クリコがスポンサーか!?と下世話な想像が浮かぶぐらい、とにかく随所のキーポイントにヴーヴ・クリコが飲まれるので、とても印象に残っているのである。
20代の初め頃、街でバーテンをしていたときに、バーテンの誕生日には誰からともなく酒を持ち寄り、盛大にパーティをやっていたことがあった。日頃馴染みのお客は皆がそれぞれ趣向を凝らした珍しいシャンパンやテキーラを用意して持ってきてくれ、誕生日の人はそのうちの最も好きなシャンパンをボトルごとラッパ飲みできる、という特権が与えられた。そのシャンパンの栓を抜く「ポン!」という景気のいい音でパーティは始まって夜通し続き、後半にはどこの誰とも分からないヤツまで乱入し「ハッピー・バースデイ!」などとわめき散らしてタダ酒を飲む。幸せな誕生日の主人公は、最後にはこぼれた酒が大きな水たまりのようになったバーの床に大の字になって、スブ濡れで意識不明のまま夜明けを迎えることとなるのだった。
同じシャンパンでも、リックのカフェ・アメリカンの上品さとは似ても似つかない光景だけど。しかし、思い返せばありとあらゆる銘柄のシャンパンを浴びるほど飲み尽くすことのできた、稀有な体験だった。今そんなことをしたら10分ももたず救急車で病院に直行することになるだろう。
とりとめもなく長くなった。
まあそんなワケで(どんなワケだ!?)、ボクの大切なシャンパンはヴーヴ・クリコなのである。