
先日、仕事がひと段落ついたので街まで飲みに出た。バスで四条烏丸というところまで行き、久しぶりに街の空気を嗅ぎながら景色を眺めつつ散策してみようかと考えて、そこから目的の河原町御池というところまでは少しあるのだけど歩いてみるとにした。何ヶ月かぶりに歩く夜の繁華街は、まったく知らない建物や店がたくさんできていて、どこか他所の街に紛れ込んだみたいな感覚がして妙だった。かなり冷えた夜で、道ゆくアベック(死語だという指摘を受けたのだけど、そう言いませんかねみなさん?)がやたらとくっついて歩いているのを横目に見て「お。なかなか」とか「う〜む。いまいち」とか心の中で冷やかしつつ、のんびりと歩く。空気は冷えて寒々として、空には薄い雲がかかり月がぼうっと白く滲んで光る、そんな夜だった。
店は「TAVERN SIMPSON(タバーン・シンプソン)」といって、創業30余年にもなる老舗のバーだ(HPがないので
ぐるなびや
地元のグルメ情報でご参照のほど)。「TAVERN」とはイギリス発祥の「バー」とか「パブ」とかいう意味に使われる言葉である。アラブ人が頭に巻く「ターバン」ではない。よく観光客のお客さんが間違って「ターバン・シンプソン」と言っているのを耳にするが、根本的に間違っている。アラブの気配は微塵もない、生成色と木目の壁にチェアレールの付いた内装の、イギリス式のオーセンティックなバーである。

ここのマスターとバーテンはボクの釣りの大先輩で、だから彼らと釣りに行くときは店が閉まる時間に迎えに来ることはあるのだけど、開いてる時間に客として来るのは久しぶりである。昔から飲食の情報誌などによく載っているのと、すぐ隣が京都ロイヤルホテルということもあってか地元の人間や外人も含めた観光客でとても賑わっている店で(時にはびっくりするような有名人が来てたりする)、早い時間だと一人でもなかなか席にありつくことができないのだけど、この日は少し遅い時間だったことと、とても寒い夜だったこともあってか近頃には珍しく空いていて、ボクの目指すカウンターには他に2組しかお客さんがいなかった。
何をするにも控えめなボクは(笑)カウンターのはじっこに小さくなってへばりつき、とりあえずのビールを一本平らげて、次に最近流行っているという「ホットワイン」なるカクテルを頼んでみた。出てきたのを見ると赤ワインのカクテルらしく、中にクローヴのかけらが2つ浮いている。口元に持ってくると、むうっとするアルコールの揮発とともに赤ワインとクローヴの香りが鼻に抜け、一口すすると温かいアルコールが咽喉を通る。結構なパンチがある。訊くと、ブランデーにコアントロを赤ワインで割り、それを温めたものだそうだ。ちょうど良かった。寒い夜の街を歩いてきたので体が冷えていたのが、一気に暖まった。

ミックスナッツを齧りながら、次はジンを頼む。変なジンがあるというので、それをロックグラスでライム&ちょいトニックで飲むことにする。フランスのジンで、エギュベルという銘柄のものだ。ドライ・ジンではなくフレーバー・ジンという感じで、普通のドライ・ジンよりも香りが強く少し甘い。ドライ・マティーニには向かないかもしれないが、ロックグラスで飲む分には、こっちの方が味わいがあって好きだな。
このバーのカウンターに座った者はみな等しく、マスターの独り言とも客に話しかけているとも判別のつかない駄洒落と一人漫談を聞かされる羽目になる。それを聞くともなしに聞きつつ、あるいは適当な間の手や突っ込みを入れながら夜の更ける時間を楽しむ、というのが、シンプソンのカウンターの夜の気楽な過ごし方である。2つおいて隣に独りで座ってたイカツいおばさん(あるいはちょっと年増なおネエさんと表現すべきか)がスコッチのボトルを目の前にでんと据えて飲んでいたのが去ると、次に壮年にさしかかったぐらいのおじさんがふらりと独りでやってきて、スコッチをブレンデッドにするかシングルにするかで悩んでいる。「シングル、って言うとカッコいいぜ」と腹の中で思っていると「ブレンドで」ときた。思わず、ピカピカに磨かれた真鍮のカウンター・バーに乗せていた肘がズリ落ちた。好みが合わんというだけのことだけどね。他人の好みをどうこう言うつもりはない。カッコいいというのも、ボクだけの価値観である。
だらだらと思い出しつつ書いていたらとても長くなった。
まあ、こうしていつものバーのカウンターでの夜は更けていく。
店に着く前と後とも含めて、久しぶりのくつろいだ素敵な時間だった。